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B 偏見と戦う少年にため息 -人種の壁:次世代の奮闘に期待-
ヨーロッパに住んでみて初めて関心を持った事にひとつに移民問題がある。特にフランスのイスラム教徒北アフリカ系移民に関わる問題は非常に根深く複雑である。私は典型的な日本人で、その地域の地理的な知識も無いし、イスラム教に関する知識も微々たる物だが、周りでそういった話題が論ぜられると必ず耳を傾け又、色々な人の意見を聞く様に心がけている。
フランスの白人中流階級の彼らに対する偏見は相当なものである。そしてその偏見は主に移民の第二世代、つまり移民としてフランスに入国してきた人々の子供の世代に向けられていると思う。彼らの親はフランスに根を生やすべく必死で働いてきたが、その子供たちは、フランスと自国の文化双方のオイシイところだけを謳歌し、勉強や労働に励まない、そしてつまらない事があると安易に犯罪に走る、といったところが、白人によってステレオタイプ化された彼らの行動様式である。そして、北アフリカ系とアフリカ系黒人、アフリカ系黒人とアジア系、と言った様に移民同士の確執も近年目につく様になってきている。
こういった移民達の次の世代、第三、第四世代、つまりフランスで生まれ、現在フランスの義務教育期間で勉強している子供たちは、どの様な意識を持っているのか、又これからどの様にフランスの社会に溶け込み、どの様に自分のルーツと向き合っていくのか。ある日、私のこの問いに答えるかの様に出現した少年がいた。
その少年は一人で医院の待合室に座っていた。年は11歳位。一見してアラブ系である事がわかる。私が彼に興味を持ったのは、この少年が真剣に「ナチュラルジオグラフィック」誌を読んでいたからだ。大人にも難しいこの雑誌をすらすらと読み進んでいる彼にどうしても話しかけたくなった。「ねえ、その雑誌難しいよね」と言うと、彼はにっこり笑って「そんなことないよ。僕、字読めるから」と答えた。それはわかるんだけど。「でもね、僕がアラブだから、字が読めるか、って聞いてくる人が多いんだ」と彼は悲しそうに言った。そんな失礼な!!、と思いながら、この国の識字率が日本より格段に低い事が記憶に甦った。「僕はクラスで自然科学と歴史では何時も一番だし、他の科目も五番以下になった事ないんだ」と、はにかみながらも自分の事を話し始めてくれた。
「将来は考古学者か弁護士になりたい。それまではどんな事があっても必死に勉強するんだ。僕はフランスで生まれてフランスの教育を受けるのだから、僕さえ頑張ればなれるんだ。僕の親や親戚は笑っているけどね」。 彼は移民の第三世代。彼の祖父母がモロッコから移民してきた。彼の両親はモロッコで生まれ少年時に親と共にフランスへやってきたそうだ。彼の父親は中古自動車の販売業、母親は専業主婦。
典型的な移民第二世代である。「うちの周りはアラブ系の家族が多いから、移民の子は勉強しても無駄、親の仕事を継げって言う人も多いんだ。実際友達の中にはそう決めこんで勉強しない子もいるよ。でも僕はそう決め付けるのが嫌なんだ。」
夢を見る事は子供に与えられた素晴らしい権利なのに、それすら放棄させてしまうほどこの国の移民問題は奥深いのだろうか?日本では考えられない!私のそんな憂いを察した様に、彼は力強く言った。「僕は頑張るよ。僕が落ちこぼれたら(やっぱりアラブはねえ)って言われるに決まっているもん。でもね、僕はアラビア語も勉強してるんだ。そうしないとおじいちゃん達が悲しむから」。
彼の様な優秀な第三、四世代が踏み出す一歩一歩が確実に偏見を打ち崩していく事が出来る様、私もフランス在住者の1人として暖かく見守っていきたい。又彼の様な少年少女に出会えたら又話しかけてみたい。そして彼らの夢を語ってもらいたい。
彼とのほんの一瞬の一期一会が私にとってどんなに励みになった事だろうか。フランス社会に不満を持ちがちな自分が恥ずかしくなった。彼に負けない様私もフランスの社会で頑張っていこう、と初心に帰って鉢巻を締め直した。
私には日本に幼い甥が3人いるのだが、彼らを思い出して目が少し潤んできてしまった。
甥達が日本に生まれ教育が受けられる幸運に心から感謝している。でも、彼らが大きくなったらこの話をぜひ聞かせてあげたいと思っている。